損保は、数学的に生保数理よりも難しい計算も出てきます。
生保を数学系の中では暗記科目と位置付けると、損保は計算科目です。
アクチュアリーとして数学力を発揮する上で、最初の関門です。
全体像
損保数理の科目の特性については以下の通りです。
難易度の高い数学を使っている
計算能力がとても大事(速さと正確さ両方)
公式が多い
小問がたくさんある
生保数理、年金数理ほど点数はブレにくい。(分散が少ない)
試験全体の難易度自体は生保数理より上といわれている(複雑な計算がかなり得意な人は損保の方が楽、という人もいる)
生保数理に比べて、高度な数学力を要求されます。
とはいえ数学力をつけるためにしっかりと勉強をすれば、合格を取れる科目です。毎年の傾向を見ると、60点分くらいはなんとか解ける問題です。20点分くらいは、かなりの難問が並んでいます。解ける問題を見極める選球眼が重要と言えます。
出題分野
損保の出題分野は、以下の通りです。
料率算定の基礎(回帰分析等を含む)、リスクモデル
純保険料と営業保険料の算定方法
信頼性理論
経験料率、クラス料率
支払備金の数理
積立保険の数理
保険料算出原理
危険理論の基礎
再保険の数理
リスク評価の数理
リスクや損害保険ならではの考え方について深める内容であることがわかるかと思います。
生命保険とはまた違った印象ですね。
計算、穴埋めの他に正誤問題が入ってくるのが特徴的なところです。
必要な前提知識
基本的には、(数学も受験した人であれば)前提知識を気にせず勉強を進めてオッケーです。
以下、前提として持っているとやりやすい知識の説明をします。
損保数理は、アクチュアリー数学科目合格程度の数学の知識が前提として求められます。
さらに、保険の仕組みに関する知識も簡単にですが必要です。
生保数理の「純保険料」「責任準備金」あたりの基本的な保険の用語を深く理解していると、計算問題の意図も理解しやすいでしょう。微積の計算力もあると計算問題の解説を読んでいてスラスラ理解できると思います。
参考書
損保数理は参考書が充実しています。
教科書だけで大丈夫、というわけではありませんが参考書ベースで勉強を進めていけば、勉強する内容がわからなくてわからない、という事態には陥らないはずです。年金数理などはセンスが絡んできますが、損保数理は解説がわかりにくくても別の本を読んだらわかった、という現象がよくおこります。
一冊読んで理解できなくてもあきらめずに、別の本で理解を深めてみてください。
きっと、時間をかければ過去問を理解できるようになるはずです。
リスクセオリーの基礎
超わかりやすい解説が書いてあります。
損保数理の基礎的な内容はこの本を使ってインプットすれば問題ないでしょう。
演習書ではなく教科書的な本です。
教科書よりコンパクトかつ分かりやすく解説されています。
この本の重要性は、「理論の根底から理解できること」にあります。
損保数理は「理解できなかったけど、問題は解けた」というケースが頻発します。
この状態では、問題は解けるものの試験本番にもできるかどうか不安になってしまいますよね。
実際少し問題をひねられると、途端に解けなくなります。つまり、応用がきかないのですね。
確実に合格するためには、内容を理解して応用力を高めるべきです。応用問題をこなすことも大事ですが、根っこから理解することで本物の応用力が磨かれます。
そのために必要な本でした。
ただし、カバーされていない範囲もあるので、教科書と併用しての利用がおすすめです。
基礎のインプットにおいて最強の本です。
例題で学ぶ損害保険数理
基本事項をコンパクトに学びながら問題を実際に解くことができるので効率的に試験対策ができます。
過去問を解いていく上で、理解ができないときに、類題をこの本で探して利用することもできます。易しめの例題を先に解いてから、過去問を解くことで、スピーディーに理解が出来ます。
解説もわかりやすいので、損保数理の勉強をする上で必須の本といえます。
過去問は難易度が高いので、まずはこの本の例題から解いていくという受験生が多いです。
テキスト
生保数理ほどではありませんが、損保数理もある程度テキストの内容で対策ができます。
どちらかというと考え方の説明が多いので、計算問題は「例題で学ぶ」などでの対策がおすすめです。
正誤問題対策として、たまには読んでおきましょう。
過去問
過去問をこなすことで、独特な出題形式に慣れることができます。
数学の文章問題とは違って、損保数理ならではの変数や計算方法がたくさん出てくるので、問題を解き慣れていることは必須です。
難問題の系統とその解き方(アクチュアリー受験研究会)
特に重要な問題がまとまっている資料です。
過去の出題の中で、マスターしたほうがいい良問の解き方を身に付けることができます。
おなじくアクチュアリー受験研究会のワークブックもめちゃくちゃいいです。
以下のような特徴があります。
各分野の概要について、わかりやすい説明が記載されている。
問題演習としてレベルがちょうどいい過去問だけが整理されている。(⇒捨て問に時間を取られるような無駄な演習をしなくてすむ)
問題をスピーディに解くための便利公式が記載されている。
過去の情報から出題予想がされ、予想問題も把握できるようになっている。
以上のような特徴から、非常に評判が良いです。
アクチュアリー数学シリーズ 損害保険数理
テキストの補完として使うことができます。
テキストでは細かく扱っていない漸近理論や理解が難しい箇所である
危険理論
極値理論
コピュラ
について手厚く取り扱っており、基礎ができた状態で読むには非常に良い教材です。
これらの箇所は毎年つまづく人が多いので、補完的な本としてこの本は申し分ありません。
特にコピュラをきちんと扱ってくれている本は希少です。
ただし、メインで扱うにはちょっと効率が悪い気がするので、メインで使うのは「例題で学ぶ」や「リスクセオリー」にするのがオススメです。
ただし、テキストの全体像をある程度理解しているといった「基礎ができた」状態でないと得るものは少ないように思うので注意が必要です。
別の角度から損保数理の内容を眺めることで、理解を深めるのことができる書籍と言えるでしょう。
学習プラン
以下のステップで進めます。
リスクセオリーの基礎を通読
例題で学ぶ損害保険数理を解く
テキストの通読、練習問題
過去問演習
以下、それぞれ説明します。
1 リスクセオリーの基礎を通読
インプット用の本です。
2 例題で学ぶ損害保険数理を解く
簡単な問題演習をするための問題集です。
コンパクトにまとまった公式一覧のページもあるので、損保数理の中でも計算部分の対策に使えます。用語などがわからないときはリスクセオリーに戻りましょう。
3 テキストの通読、練習問題
公式テストを読みます。
リスクセオリーと「例題で学ぶ」をやっていればほとんどの内容はカバーできているはずですが、テキストの内容も読むことで理解を深めましょう。
簡単に、章ごとについて説明します。
損保数理の教科書には以下の項目があります。
序章 確率・統計の予備知識
第1章 損害保険料率の基礎知識
第2章 クレームの分析
第3章 経験料率
第4章 クラス料率
第5章 支払備金
第6章 積立保険
第7章 保険料算出原理
第8章 危険理論の基礎
第9章 再保険
第10章 リスク評価の数理
それぞれの中で特に重要な部分は以下の通りです。
序章 確率・統計の予備知識
数学を受験した人は読む必要はありません。
もし不安な箇所があれば読む、くらいの認識で大丈夫です。
損保数理では、数学の範囲の中のこの部分が求められているんだな、くらいの気持ちで軽く読んでくれれば大丈夫です。
第1章 損害保険料率の基礎知識
損保の入り口の知識です。
頭に損保数理の考え方をなじませるために、しっかり読みましょう。
生保知識と似たような考え方も多いので、生保をやった人はここまではすんなりいけるのではないでしょうか。
第2章 クレームの分析
超重要です。ここの理解度によって後々大きな差が出るので、精読が必要です。やっと損保らしくなってくる章ですね。クレーム額やクレーム頻度といった専門用語に圧倒されることなく、丁寧に意味を理解していきましょう。
第3章 経験料率
今までに見たことのない用語が飛び交い、面食らってしまう人も多い章です。
しかし、前提知識としては数学プラスこの教科書でカバーされているので、頑張って読み進めてみてください。
第4章 クラス料率
ミニマムバイアス法は重要なので覚えておきましょう。
その他も、名前と数式が対応するようにしましょう。
第5章 支払備金
用語ごとの意味をしっかり言えるレベルにしましょう。
「例題で学ぶ」でもたくさん扱われている部分があるので、併読するのもアリです。
第6章 積立保険
知識として生保数理を知っている人にとっては読みやすい分野です。
生保の受験がまだの人はいったん後回しにしても良いでしょう。
第7章 保険料算出原理
超重要です。
「リスクセオリー」「例題損保」を併読しながら理解を深めましょう。
それぞれの用語の意味を説明できるくらいに勉強しましょう。
第8章 危険理論の基礎
過去問との併読がおすすめです。
理解すること自体はそこまで難しくないはずです。
確率過程が出てくるので、数学の知識が必要な章です。
第9章 再保険
再保険、というと難しそうですが扱っている内容はシンプルです。
着実に進めていきましょう。ちなみに、アクチュアリーの就職先として再保険を扱う会社へ行く人もいるので、業務で使う可能性も十分あります。
第10章 リスク評価の数理
この章では、「理解ができない」という相談をたまにもらいます。
というのも、「コピュラ」などは解説がそもそもわかりづらい部分があります。上述した参考書の方がわかりやすいものも多いので、「教科書でわからないところは参考書で理解しに行く」というスタンスでいましょう。
また、「理解できたところは過去問に取り組む」姿勢でいましょう。
テキストは、他の参考書や過去問と一緒に使うことで理解が深まります。
概ね内容としてはしっかりしているので、読む価値アリです。
教科書を読み進める順番としては、序章、1章、6章、10章は後回しにして、それ以外を順番に読んでいきましょう。(数学の知識が不安な人は序章も読んでおきましょう)
なお、教科書の知識だけでは一面的になってしまうので、たとえば「例題損保」の問題を解きながら、わからないところを教科書で理解を深めるといった使い方もおすすめです。
4 過去問演習
最初は、損保数理の出題傾向を把握することを念頭に置いて、解ける解けないは二の次といったイメージで良いと思います。
何回か解くうちに解法パターンのようなものが見えてくるまで取り組みます。
公式でなるべく計算をショートカットして、考える時間を取れるようにしましょう。
あと、損保の大問は難しいことが多いです。なので、小問でしっかり稼ぐ戦略になることが多いと思われます。試験本番の時間配分の参考にしてもらえればと思います。(もちろん、大問もきちんと勉強していけば解けるようになりますよ!)
過去問を解いていくとわかりますが、新傾向の問題が良く出ます。
生保と違って損保は内容が時代によってアップデートされていくので、このような問題が出題されるのですね。難易度はそこまで高くない場合が多いので、出題された場合は狙って取りに行きましょう。
上記のように進めていくことで、無理なく十分な対策ができるでしょう。
損保数理は、ほかの科目に比べて特徴的な参考書が数多く出版されています。
参考書を使いこなしながら過去問をこなす力が求められます。
また、多角的な視点から問題を眺めることで応用力を磨いていく必要もあります。
数学が好きな人にとっては面白い試験だと思うので、頑張ってください!
まとめ
アクチュアリー1次試験の損保数理は、きちんと順を追って勉強していけばしっかりと実力がつきます。この記事でご紹介した方法で、勉強を進めていってください!